第11回 「あんたら凄いわ!」
 

 実はドッグレッグスのスタッフはとても少ない。当日だけのお手伝いスタッフをのぞくと「あの興行をこの人数でやってるの」と、きっと驚くことだろう。よって一人何役もこなすことになり、準備や興行中の舞台裏は地獄絵図のようになっている。スタッフになりたいという希望者も少なくないが、入ったとしても北島代表の本を読めばわかるとおり、ドッグレッグスは個性派ぞろいで、おまけにミーティングは独特の雰囲気があるために、いつのまにかフェイドアウトしていることが多いのだ。だから最近は年に1人スタッフとして定着すればいいほうという感じである。

 初期の頃からドッグレッグスはボランティア業界には珍しく、メンバーのほとんどが男性という異色グループだった。ある日、そこに貴重な女性スタッフHさんが加わってくれた。彼女はとにかく心のそこからドッグレッグスを支持してくれた人で、私たちのやることなすこと全て「あんたら凄いわ!」と肯定してくれた。私たちの悪ふざけやブラックすぎる言動に対しても、とにかく「あんたら凄いわ!」を連発する姿は、まるで新興宗教の信者みたいだった。けれども、当時の私たちは「周りはみんな敵だ」という感じでギラギラしていたので、Hさんの存在によってだいぶ肩から力が抜けたような気がする。

 彼女の情熱は言動だけでなく、行動もともなっていてた。ドッグレッグスで彼女は衣装作りを担当することになるのだが、こちらがどんな無理難題を出そうとも、必ず希望通りの作り上げてくれるのだ。現在も使っている「あらいぐまラジカル」の衣装や、今はいないが、「にゃんにゃんフェラクレス」の衣装も彼女の作品だ。にゃんにゃんの場合は、「頭からどぴゅっと白い液体をだせないかな」と、みんなで話していると「かー! あんたらそんなアイディアだすなんて凄いわ! あたしやってみる。まかせてよ!」と胸を叩き、例の「お○ん○ん」のかぶりものを徹夜で作ってきてくれた。

 また、そんな彼女について、忘れられないエピソードがある。健常者対障害者の試合をやり始めた頃、北島が浴びせ蹴りでブルース高橋を失神させてしまったことがあった。この夜、北島は「友達を傷つけてまでプロレスをやる意味があるのか、ここまでして伝えなければならないのか」とかなり落ち込み、帰りの電車では全く口をきかにほどへこんでいた。

 そんな彼が自宅につくとHさんからのメールがとどいていた。内容は「ブルースのことはショックだったけど、立ち止まらずにやっていこう。私もがんばってリングドクターを探すからなんとか続けられるように色々工夫しよう」といったものだった。北島にとってこのFAXは凄くありがたいものだったらしい。

 ドッグレッグスを旗揚げした頃は、正直言って迷うことのほうが多かった。そんな私たちにとって、彼女の「あんたら凄い」の一言は大きな支えになっていた。現在は結婚し、2児の母となったため、なかなか興行には参加できないが、でも、きっと子育てがひと段落したら帰ってきて、また「あんたら凄いわ!」という声を聞かせてくれるんじゃないかなーと期待してる。Hさん待ってるネ。