第15回 まぼろしの企画
 

 多分このネタは、そうとうなドッグレッグスマニアでないと覚えていないだろう。スタッフの多くも忘れている……というか思い出したくないために記憶の奥にしまいこんでいる。まさにあけてはいけないパンドラの箱。それが「P-ACT」なのである。

 浪貝ひきいる「つめ隊」が色々なマスコミで取り上げられるようになった頃だ。「障害者はお前だ!」というミュージックビデオまで発売され、私たちはこのままいけば芸能界に障害者旋風がまきおこるに違いないと夢を見てしまったのだ。そして、北島代表を障害者界のジャニー北川にするべく、生み出されたスーパーアイドルグループこそ、P-ACTだった。

 グループ名は観客から笑顔をひきだすためにピエロを演じるというコンセプトで、「ピエロ・アクティヴ」の略としてつけられた。メンバーはアブノーマライゼーション、ブルース高橋、そしてナイスガイ。今にして思えば、この人選からすでにアイドルという概念から激しく逸脱しているではないか。しかし、障害者はビッグマネーになるとすっかり勘違いした私たちは、すでに冷静な判断を失っていたのかもしれない。

 P-ACTのデビューイベントに向け、このプロジェクトは進められていった。オリジナル曲は間に合わないので、まずは少年隊の仮面舞踏会をカバーしようということになった。ナイスガイたちをカラオケボックスに監禁し、狂ったように何度も何度もくり返し仮面舞踏会を唄わせた。その厳しいレッスンは5時間に及んだ。衣装も当時人気絶頂だった吉田栄作風にジーパンに白いTシャツ、頭にはバンダナと無意味にさわやかさを強調した。私たちはなんの根拠もなくブレイク間違いなしと確信していた。

 そして迎えたデビューイベント。P-ACTは仮面舞踏会の曲にのって、ブルース高橋とナイスガイ(アブノーマライゼーションは仕事で欠席。これがまた間抜けである)が登場した。スポットライトに照らされ、「これから、つめ隊に負けないように僕たちがんばるから応援よろしく」と叫んだ瞬間、私たちは自分たちが取り返しのつかない過ちを犯したことに気づいた。しかし、時すでに遅し。会場に残されたのは、あっけにとられ、どうリアアクションしていいかとまどう観客たちだった。

 決してナイスガイやブルースが悪いんじゃない…ただ芸能界という華やかな魔物に踊らされた私たちがバカだったのだ。今、思い出しても自分たちの思い込みの激しさにゾッとする。それから誰ひとりとしてP-ACTの名を口にするものはいなくなった。もちろん私の中で仮面舞踏会は廃盤となった。