「ボランティアのVはバイオレンスのVだ」
オレがそういうふうに強く実感したことが過去において二度ほどある。
一つは、アンチテーゼ北島のサンボ慎太郎に対する容赦無き攻めを目の当たりにした時。ただし、これは普段の二人の人間関係を多少なりとも知るオレにとっては、感情を移入しやすいものであった。
理解の範疇を越え、ただただ驚き、オレを恐怖のどん底に陥れたもう一つの出来事。それはドッグレッグスのミスター・ジェントルマンこと、ブルース高橋のリング上における見事なまでのキレっぷりであった。
今ではオレ自身は見慣れたし、対戦することも多々あるので、怖がってばかりもいられないのだが、ドッグレッグス旗揚げ当初は、はっきりいって悩みの種だった。
その頃のブルースのファイトを一番間近で見ていたのは、当時のレフェリー、つまりオレだった。
ブルースのキックをする瞬間の鬼のような顔は、まともに見ることができなかった。ブルースの掌打の”ブーン”と風をきる音には耳をふさぎたい気分だった。さっきまで優しくニコニコほほえんでいたブルースはリングの上にはいない。いるのは修羅と化したブルースだ。
普通の好青年が”狂乱の好青年”に変わる瞬間、それは入場テーマ曲が会場に鳴り響いた時。「来るべき21世紀も人間は時代に絶望し、精神異常者になるしかない」。当時のブルースはこんな恐ろしい歌詞をバックにして、リングへ歩を進めていたのだ。
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