1993年の夏、初めての大阪興行を終えた私たちはホテルへと戻ってきた。私と高橋、慎太郎と浪貝、神山とナイスガイが同室で、新垣は女性一人なので個室という部屋割りであった。「無敵のハンディキャップ」では「プロレスを辞めたい」と言いだした高橋を私が説得する様子を描いたが、時を同じくして慎太郎たちの部屋でも別のドラマが生まれていたのである。
「うっ、うーーん、うーーん……」
午後11時を過ぎていた頃だった。眠りかけていた浪貝は、妙な呻き声で目を開いた。隣のベッドを見ると、慎太郎の寝ている布団が、まるで大きな芋虫のように蠢いている。その瞬間、不安が脳裏をよぎった。
──まさか、発作でも起こしたのか?
頭部へのダメージは時間が経ってから症状がでる場合があると、浪貝もどこかで聞いたことがあった。確かに今日の試合、慎太郎はいつも以上に頭部を滅多打ちにされていた。
「しっかりしろぉ、しんたろう!! いしゃ、いしゃを、よんだほうがいいかぁ!?」
浪貝は転げ落ちるようにベッドから出ると、慎太郎の布団を勢いよくめくった。
「うっ!? な、なんですか、なみがいさん!?」
浪貝の目に飛び込んできたのは、下半身まる裸で局部を握って呆然とする慎太郎の姿だった。浪貝は状況をよく飲み込めなかった。
「……おまえ、なぁにやってんだぁ」
「なにって、おなにーなのですね」
慎太郎の発していた声は、呻き声ではなく、喘ぎ声だったのだ。
「おまえ、あんだけぇ、はげしいぅ、しあいやったあとでぇ、よくおなにーなんかできんなぁ」
「おなにーは、いちにち、いっかいは、あたりまえですよ」
慎太郎が勝ち誇ったような言い方をしたので、浪貝は心配したのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「おまえ、ひとがせっかく、しんぱいしてやったのに、ふざけんなよぉ。だいたいおれがぁ、となりでねているのにぃ、おなにーなんかぁ、するんじゃねーよぉ」
「……はい」
そう言うと、慎太郎はトイレに入っていった。数分後、スッキリとした顔でトイレから出てくると、ベッドに潜り込んだ。
「まったく、たふなやつだぁ」
浪貝は呆れたように呟くと、静かに目を閉じた。今度はゆっくりと眠れると安心し、意識が夢への入口を彷徨い始めた頃、また慎太郎の妙な呻き声が聞こえてきた。
今度はトイレから、その声は漏れている。
「しんたろう、うるせぇぞ!」
激怒した浪貝が叫ぶ。
「すみません、にかいめです」
トイレの中から、慎太郎の声が聞こえてきた。
(このエピソードは下ネタが多すぎるという理由でカットしました)
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