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ここでは、最新の興行における試合結果を報告します。 |
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韓国興行「DOGLEGS in KOREA」
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2005年5月21日 鷺梁津 近隣公園特設リング |
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北島行徳の韓国大会リポート
(試合映像は後日、アップします。)
その1「ゾンビのように」
5月21日。
前日から韓国入りした私たちは、試合会場へと向かった。 会場は金浦空港から車で30分ほどの郊外。 陸上競技場に特設リングを作るとのことだった。
ところが選手団を乗せたバスが着いたのは、なぜか団地。
言われるままに案内されると、団地の公園にリングが組まれているではないか。
会場には万国旗が飾られ、風船で作られた入場用のアーケードがある。
なんだか団地内で開かれるお祭りのような雰囲気だ。
韓国側の担当者と話すと、あっさり「会場が変更になった(注・韓国語)」とのこと。
まぁ、郷に入っては郷に従えだ。とりあえず、了承した。
座席数はざっと見渡すと、700というところだろうか。
かなりの座席数だ。これが本当に埋まるのだろうか。
試合開始は午後3時20分(やけに中途半端)。その前に午後2時から歌謡ショーが開かれる。
「この演歌ショーで客寄せをします。障害者プロレスだけでお客さんを集めるのは難しいですから(注・韓国語)」
そう韓国側の担当者は話す。
…うーん…。
まぁ、郷に入っては郷に従えだ。
控え室は公園の側にある女子高の格技室。
そこで出番を待っていると、リングの方から韓国の演歌が流れ始めた。
私が何気なく窓の外を見ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
団地の老人たちが演歌の歌声に引かれ、まるでゾンビのようにぞろぞろと公園に向かっているのである。
その数、数百人。
…って、何?
まさか……観客って、みんな老人?
その2「扇風機の神通力」
試合開始まで時間があったので、私は試合会場に顔を出してみた。
700ほどあった席の3分の2は、演歌に釣られて集まった老人と、その孫と思われる子供たちで埋まっている。
公園の端には本部席のテントがあり、強面の中年男性がパイプ椅子に座っている。
一見するとヤクザのような風貌なのだが、皆、韓国の福祉団体の関係者なのだという。
テントの前のテーブルには、商品袋や小さなダンボール箱が置かれている。
試合が全部終わった後で行われる抽選会の商品だ。
実は事前の打ち合わせで、韓国側の担当者からこんな話をされていた。
「韓国ではイベントにお土産がつくのは当たり前。観客全員にお土産を用意できないのなら、せめて抽選会とかをやらないと。そういうお楽しみが最後にないと、途中でお客さんが帰ってしまうかもしれない」
というわけで、抽選会は韓国側の仕切りで行われることになった。
では、用意されていた商品を値段の高い順に並べてみよう。
1「扇風機」
2「健康サンダル」
3「栄養ドリンク」
……ちょっと待て。 この商品で最後まで観客は会場に残ってくれるのか?
その3「電子オルガン」
扇風機などの商品の他にも気になっているものがあった。放送席の側に電子オルガンが置かれ、奏者までいるのである。
一体、なんのために、電子オルガンが……。
そんなことを考えているうちに、長いセレモニーも終わり、ようやく試合開始となった。
リングに韓国プロレス協会のリングアナウンサーが上がった。顔が脂ぎった中年男性である。
実は、イベント開始1時間前、このリングアナウンサーは「3分3ラウンドなんて、プロレスの試合じゃない。10分1本勝負か、5分1本勝負にしろ」と無茶苦茶な要求をしてきたのだ。
郷に入っては郷に従えとは言っても限度がある。「それだけは譲れないから突っぱねてくれ」と日本側の主催者に頼んだ。主催者が交渉をすると、アナウンサーはむっとした表情をしたらしい。
さて、いよいよ選手の入場となった。
通常、プロレスや格闘技の入場は、
試合のコール→1人目の入場テーマ→1人目の選手入場→2人目の入場テーマ→2人目の入場テーマ
という流れだ。
一応、私も事前にその流れを台本にして韓国側に送っておいた。
ところが、アナウンサーは突然、レフェリーの名前をコールした。
うちのレフェリーが名前を呼ばれて戸惑っていると、韓国のスタッフが早くリングに上がれと背中を押す。
段取りと違うのに戸惑いつつレフェリーがリングに上がると、電子オルガンの音が「バババーン」と鳴り響いた。
なんじゃこりゃ、と呆気にとられていると、アナウンサーは試合に出る選手の名前を二人一緒にコールした。そして、鳴り響く運動会のマーチのようなテーマ。
こちらが用意した各選手の入場テーマはまるで無視である。
選手たちは韓国のスタッフに急かされて、仕方なく二人同時にリングに向かった。
すると20人ぐらいの女子高校生たちが駆け寄り、選手に向かってクラッカーを鳴らした。
なんだ、この演出。私は目眩を覚えた。
選手がリングに上がると、リングアナウンサーは声を張り上げてコールをした。
そのコールに合わせて、また電子オルガンが「バババーン」と鳴り響く。
この電子オルガンは試合中でも、大技が出ると効果音のように「バババーン」と鳴らされるのだ。
こうやって書いていると、かなり笑えるのだが、現場のスタッフは殺伐とした空気になっていた。
ドッグレッグスのスタッフの中には勝手に進行を変えられたことに激怒している者もいる。そもそも、なんでこんなことになってしまったのかというと、ラウンド制を押し通したことで、リングアナウンサーが面子を潰されたと腹をたて、「だったら進行はこちらの好きにやらせてもらう」となったのだ。
そんな感じで、試合以外の演出は、日本でやるようにはいかない。 ドッグレッグスのスタッフたちは不安な顔をしてリングを見つめるしかなかった。
その4「流血は国境を越えて」
試合が始まったものの、観客席は静まり返っていた。
障害者たちのリアルファイトに圧倒されているのか。それとも単調にも映る試合展開に退屈しているのか。観客の表情からは読み取れない。
時折、電子オルガンが「バババーン」と鳴り響くと、パラパラと拍手が起こるぐらいの反応である。
変化が起きたのは、サンボ慎太郎とゴッドファーザーの試合からだった。
ゴッドファーザーが肘と膝で慎太郎の顔面を激しく攻め立てる。すると慎太郎のこめかみと唇から激しく血が噴出した。
瞬く間に慎太郎の顔面は血まみれになり、ゴッドファーザーの体も返り血で真っ赤となった。
ついに観客席が大きくどよめいた。
流れる血も拭わずに闘う二人に、観客から声援が送られる。
やはり、老人でも血を見ると興奮するようだ。
放送席にいたリングアナウンサーや韓国側のスタッフは大慌てで「救急箱!」「もう試合をやめさせろ!」と叫んでいる。
慎太郎の流血を見慣れている私たちが平然としていると、韓国側のスタッフが「どうして、そんなに落ち着いているんですか!」と驚いていた。
そして、慎太郎は腕ひしぎ逆十字で逆転勝利を決めた。
大喜びの韓国の老人たち。
目を丸くする韓国側のスタッフたち。
してやったりとほくそえむ私。
すっかり会場の雰囲気も温まった。もうこうなれば、こっちのもんである。 その後、観客はブラインド・ザ・ジャイアントの巨体に驚き、鶴園誠とウルフファングの技術の攻防に魅了されていた。
本当のところ、観客や韓国側のスタッフがどんな感想を持ったのかはわからない。
しかし、試合が進むたびに電子オルガンは鳴らなくなり、その代わりに拍手と声援が自然発生したのは確かだった。
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